Home,sweet home
暖炉がぱちぱちと心地よい音をたてて、燃えている。
大きなクッションに寄りかかってうとうとしていると、アイシャが寄ってきた。
「おいで。」と声をかけると、応えるように一声ないて膝の上に乗ってくる。
その背中をなでているうちに、さらに心地のよい睡魔がおとずれる。
彼はまだ帰って来そうにもない…しばらくこのままでいよう。
静かな、静かなこの世界。
私と、あの人と、この猫がすべて。
１時間もたったのだろうか、かすかな物音で目が覚めた。
「すまない…起こしてしまったかな？」
マントを椅子にかけた彼が、こちらへやってくる。
「おかえりなさい」
着替えもせず隣に座り込もうとするのを、思わず目で制する。
「…しわになってしまうわよ？」
「やれやれ、ひとりでないということは、こんなにも窮屈なことだとはね。」
肩をちょっとすくめながら、気にもせずそのまま座り込むと私の頬に軽く触れる。
ひんやりとした感触に両手でその手を包みこんで。
「つめたーい…外は寒かった？」
「雪は降ってないけど、凍りつくような寒さだね。早く帰ることばかり考えていたよ」
「紅茶でもいれましょうか？あなたの好きなロシアンティ…薔薇のジャムでもいいかし ら？」
マーマレードじゃないのは、単純に私が苦手なだけなんだけど。
立ちあがろうとした私を軽くとどめて、いたずらっぽく顔をのぞきこむ。
「それよりも、してほしいことがあるんだがね…？」
ちょっとおどけて答えてみる。
「はいなんでしょう、ご主人さま？」
「そのまま、目をつぶって動かないで…」
「…？」
膝になにか重いものが乗る感触。アイシャ？…いえ、これは…
「…エリック？」
「しばし与えたまえ、このあわれなる巡礼にひとときの憩いを…」
芝居がかった物言いは、かなりの照れをごまかしてる証拠。
そんな強がりが、カワイイやら愛しいやら。
寝たふりをしているであろう彼の頭に、そっと唇をちかづける。
「…!?」
…額に着地したはずの唇は、もうひとつの唇にそっと受け止められていた。
やさしい、やさしい、キス。
「もうしばらく、このままでいいかな…？」
そっとささやく彼に、思わずうなずき返す。
もう少し……もうしばらくだけ、このままね……？
…創作の小部屋・１へ